研究概要

原子燃料サイクル研究ユニットでは、次の5つの研究プロジェクトに取り組んでいます。それぞれの研究概要について説明します。

① 福島対策プロジェクト CLICK
② 廃棄物成分の高充填化に関するガラス固化研究 CLICK
③ 白金族元素回収技術の開発 CLICK
④ 核種分離プロセスの高度化を目指した液々向流遠心抽出装置の開発 CLICK
⑤ 高レベル放射性廃液からのマイナーアクチニド(MA)分離抽出クロマトグラフィの開発 CLICK

1.福島対策プロジェクト

除染技術を中心としたこれまでの研究成果を踏まえて、我々は汚染土壌から放射性セシウム(Cs)を水熱処理・吸着・熱分解プロセスにより取り出し、Csのみをガラスあるいはセメントで固定化するCs高減容回収システムを提案しました(図1)。この開発研究:「金属イオン含有臨界水による土壌分級物中のCsの高速イオン交換回収と高減容ガラス固化」は、環境省の「平成28年度除染土壌等の減容等技術実証事業」の実証テーマとして採択され、実用化に向けた実証研究が進められています。

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図1:Cs高減容回収システムのプロセスフロー

さらに、水熱処理により汚染土壌から溶出したCsを直接ガラス固化する技術や、新しいトリチウム回収システムの開発研究を進めているほか、除染プロセスを社会に導入するときに必要とされる、技術シナリオと住民の合意形成法をリンクさせた方法論の研究にも取り組み始めています。
例えば、図2は最近問題になっている汚染水中のトリチウムの処理法を示したものです。我々はトリチウムの分離濃縮、希釈による海洋放流、蒸発処理などの技術シナリオを提示し、早い段階で市民のかたがたと共にこれらの技術シナリオを論議して、トップダウンではない、市民との合意による最適な導入シナリオを作り上げることができます。この合意形成過程は、国や地方自治体の意思決定の手助けになると考えています。

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図2 汚染水からのトリチウム回収に関する技術シナリオ

2.廃棄物成分の高充填化に関するガラス固化研究

ガラス固化体の発生量削減方策の一つとして、高レベル放射性廃棄物(HLW)のガラス固化体への高充填化方策等に関する研究を進めています。特に、高充填化を可能にするガラス組成探索のために、コンビナトリアル手法に基づく傾斜組成ガラスを用いた高充填ガラスの評価、及びHLWと高充填ガラスの混合物の熱分解挙動分析等による廃棄物成分のホウケイ酸ガラス内への拡散・溶解挙動の把握等を行っています。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託で日本原燃株式会社等が進めている「次世代再処理ガラス固化技術基盤研究事業」における研究開発の一つであり、日本原燃株式会社からの受託研究「廃棄物成分の組成変動に係るガラス固化試験」として平成26年度から進められている研究です。

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図3 高模擬廃棄物の熱分解反応速度及び反応に伴う発生気体の強度 vs 温度域

3.白金族元素回収技術の開発

高レベル放射性廃棄物中の白金族元素やMoを除去すると、ガラス固化体の発生量増大をもたらすガラスメルターの洗浄運転や廃液の低濃度化が不要となり、ガラス固化体の大幅な発生量減少と高品質化を同時に達成することができます。本研究では、セラミックス担体にフェロシアン化アルミニウムを中心としたフェロシアン化物を担持した無機吸着剤を開発し、高レベル放射性廃液からの白金族元素とMoの一括回収・個別分離プロセスを確立することを目指して研究開発を進めています。
本研究は、文部科学省・原子力システム研究開発事業の採択課題である「ガラス固化体の高品質化・発生量低減のための白金族元素回収プロセスの開発」において、名古屋大学、日本原子力研究開発機構、産業技術総合研究所の協力のもとに平成25年度から進められている研究です。

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図4 Mo・白金族元素回収システムのプロセスフロー

4.核種分離プロセスの高度化を目指した液々向流遠心抽出装置の開発

本装置による分離の対象となる物質は、セシウム(Cs)とストロンチウム(Sr)です。これらの半減期は短いものの発熱性核種であり、ガラス固化体への熱負荷を高めるため、その貯蔵効率を低下させる要因となっています。すでに、文部科学省科学研究費等を活用して、Cs-Sr回収用の新型遠心抽出器を製作し、油水の安定した向流接触が可能であること、及び1台の抽出器で10段以上の理論段を有する高度分離が可能であることを確認しています。また、液々向流遠心抽出装置がHLWからのMoの選択的連続分離に適用可能かどうか等についても研究しています。

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図5 液々向流遠心抽出装置の原理(上)と非定常流動解析結果例(下)

5.高レベル放射性廃液からのマイナーアクチニド(MA)分離抽出クロマトグラフィーの開発

MAとは、U、Puを除くアクチニド元素を指しますが、長半減期の放射性元素を含んでいます。抽出・分離されたMAは、燃料と混合して原子炉内に再度組み込み、核分裂により安全な元素に変換することができます。このMA捕集用の配位子を高分子ゲル構造に固定化し、かつその高分子ゲルを多孔質材料に均質に塗布した抽出クロマト分離剤の合成に成功しました。それを用いてpHを変化させることにより、MAと希土類元素群を効率的に分離できることを確認するとともに、pHスイング及び温度スイングの併用により、二次廃棄物の非常に少ない分離プロセスの実現見通しを得ています。
本研究は、文部科学省・原子力システム研究開発事業の採択課題である「多座包接型配位子によるマイナーアクチニドの無劣化・無廃棄物抽出クロマト分離」(2009~2011年度)で研究開発された技術シーズをもとに、継続的に開発研究を進めています。

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図6 ゲル塗布クロマト分離剤の充填カラムの溶離曲線例

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